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名古屋高等裁判所 昭和45年(行コ)20号 判決 1972年3月09日

名古屋市千種区稲舟通一丁目三八番地

控訴人

西村清九郎

右訴訟代理人弁護士

宮崎巌雄

日浦享

右訴訟復代理人弁護士

軍司猛

市同区振甫町三丁目三二番地ノ三

被控訴人

千種税務署長

佐藤修

右訴訟代理人指定代理人

山田巌

山本忠範

石田柾夫

吉田和男

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件につき当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、原判決を取消す、控訴人の昭和三七年分所得税につき、被控訴人が昭和三九年五月二五日付でなした総所得金額を六〇八万六、三一二円とする更正処分、その過少申告加算税三四万九、二〇〇円の賦課決定を取消す、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠関係は次のものを付加するほかは原判決事実摘示のとおりであるからそれをここに引用する。

(控訴人の答弁)

本件土地につき被控訴人主張の借地権に準ずるものがあるとすれば、その価格の更地価格に対する割合が六〇パーセントであることは認める。

(被控訴人の主張)

不動産鑑定士近藤信衛の鑑定評価はその基本的資料たる取引実例が鑑定評価に接近した時点のものでないこと、対象土地との立地条件が同様でなく場所的同一性、類似性がないこと、その取引事例の場所が特定されず、件数も僅か二件に過ぎず、その取引事例に各種の補正、修正が行なわれているがそれらの根拠、算定過程が明示されず鑑定人の恣意が介在し正当な評価とはいいがたいので被控訴人は坪当り三五〇万円が適正価格であると主張する。

(証拠)

控訴人は甲一二号証の一ないし六、同一三、一四号証を提出し証人新美猛の証言を援用し乙二〇、二一号証の成立を認め、被控訴人は乙二〇、二一号証を提出し証人近藤信衛の証言を援用し甲一二号証の一ないし六、同一三、一四号証の成立を認めた。

理由

本件に対する原判決の事実認定と判断は、原判決掲記の証拠に当審で提出された、成立に争いのない、甲一二号証の一ないし六、同一三、一四号証、乙二〇、二一号証、当審における近藤信衛の鑑定結果当審証人新美猛、同近藤信衛の証言を勘案して行なつた当裁判所の事実認定、判断と一致し、控訴人の本件控訴は理由はないものと認めるので、原判決の理由全部をここに引用し、次の説明を付加する。

(1)  原判決一四枚目裏一〇、一一行目に掲げる証拠に成立に争いのない甲一二号証の一ない六、同一四号証を加え、同一五枚目表一行目から二行目の一三九万六、八〇一円を一三九万四、九五六円と訂正する。

(2)  本件に対する当審における一番の争点は控訴人が訴外東和産業株式会社に提供した本件土地の時価如何ということであり、当審証人近藤信衛の証言、同人作成の鑑定評価書によれば本件土地の昭和三七年一二月二四日当時の更地価格は三・三平方メートル当り約一〇八万五、二六〇円とあり、又成立に争いのない甲二、三、四号証による鑑定結果によつて被控訴人の査定価格たる三・三平方メートル当り一四〇万円より低額となつていることが認められる。しかし土地の価格はいろいろな要素から成り正確無比は期しがたい上これに成立に争いのない乙一ないし二一号証、原審並に当審における証人新美猛の証言弁論の全趣旨を合せ比較して考えると被控訴人も又当時の各取引事例、近隣の事情、本件土地の特性等により本件土地の評価を算出したこと、訴外東和産業株式会社が控訴人よりこの土地を四、〇〇〇万円の代物弁済として受取つたかどうか正確に判定できないことは当裁判所の引用する原判決の説明するとおりであるとはいえ、とにかく控訴人が昭和三六年三月一日作成の公正証書(乙一七号証)により株式譲渡契約をなしていわゆる手付金として四、〇〇〇万円を受取り、結局控訴人が契約を履行できなかつたのでその手付金返還の代りに本件土地を提供する結果となつたこと、この返還につき控訴人のなしたことは本件土地の提供だけでそれ以外に右四、〇〇〇万円の返還について弁済されている事実の立証のないことに鑑みれば控訴人は本件土地と交換した元地の買入れ価格との差額を所得している勘定となるのであつて被控訴人がなした本件土地の評価、それに基づく譲渡所得を計算して課税したことに違法があるとは認められず、控訴人の本件控訴は理由がない。

(3)  なお、原審において借地権価格は更地価格の七〇パーセントであることは当事者間に争いがなく当審においてはその価格は六〇パーセントであることが争いないとして改められたが、元元原判決挙示の証拠によるも本件土地の更地価格は絶対確定的のものと見られないから借地権負担の本件土地の時価を二七八一万八、〇〇〇円(坪一四〇万円)と認めた原判決は相当であるといわねばならない。

よつて民訴法三八四条により本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき同法八九条、九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 廣瀬友信 裁判官 菊地博 裁判長裁判官奥村義雄は転任につき署名捺印できない。裁判官 廣瀬友信)

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